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笹山弁護士の労働相談

その18

質問

「夜勤は、月8回(2交代なら4回)以内が基準だと思っていました。ところが、ここ数年夜勤回数が、2交代なんですが月6回になったりします。こんなに夜勤をさせるのは法律違反にならないんですか?」

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答え

 それは大変ですね。

私も親が夜勤をしているのを見てきました。8日に1度の間隔だった夜勤が6日に1度になったときのしんどさを見ていれば、夜勤の辛さはよくわかります。

 しかし、残念ながら、「法律違反にはならないか」と問われれば、法律違反はないと答えざるを得ません。しかし、ではいかんともすることができないか、と問われれば、そんなことはない、と考えます。

 はじめに、夜勤に関する法規制にどのようなものがあるかを見てみましょう。

 第一に、労働時間そのものの規制です。

 労働時間の規制は、労働基準法で定められています。労働基準法の原則は、「1日の労働時間は8時間以内」というものです(労働基準法第32条)。

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これにはいくつか例外があり、そのうちの一つに「変形労働時間制」があります(労働基準法第32条の2以下)。

これは、労働時間が一定の期間を平均して週40時間以内におさまるようにするならば、ある特定の日で1日8時間を超える労働時間を設定しても構わないという制度です。

2交代制の16時間夜勤は、16時間で設定されても、この変形労働時間制度の要件が守られている限り、労働基準法に違反していることにはなりません。

 第二に、休憩時間についてですが、「労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩」が義務付けられています(労働基準法第34条)。8時間以上の勤務は1時間の休憩ですので、労働基準法では2交代制の夜勤でも、1時間の休憩を取れば違反ではないということになります。

 第三に、賃金について、労働基準法では、午後10時から午前5時までの労働を深夜労働といいます。この深夜労働については、この時間帯の労働に対する1.25倍以上の率で計算した割増賃金の支払義務が使用者に課されています(労働基準法第37条3項)。

 第四に、使用者は、交替制によつて使用する満16歳以上の男性の場合を除いて、満18歳に満たない者を深夜労働に使用できません(労働基準法61条1項)。

妊産婦の請求ある場合には、妊産婦を深夜労働につけることはできません(同第66条3項)。

育児介護休業法により、小学校就学前の子を養育する労働者又は要介護状態にある対象家族を介護する労働者(「家族的責任を有する労働者」)は、深夜業の免除を求めることができます。

 なお、従前は、看護師が夜勤専従として働いている場合、診療報酬の入院基本料算定要件で夜勤専従者の月夜勤時間数は144時間が上限と定められており、この場合2交代制の夜勤の場合は月9回、3交代制の場合は月18回が上限ということになるわけですが、これも廃止されてしまいました。

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 このように、法律では、夜勤そのものを一般的に禁止する規定は存在しません。18歳未満の未成年者といった特殊な地位にある者を深夜労働に使用できない等の一定の例外的なケースを除いて、原則として夜勤を行うことは禁止されておらず、変形労働時間制や割増賃金の支払いなど、条件を守ってさえいれば、夜勤について労働契約で自由に締結できることになるし、地方公務員の場合は任用の勤務条件にできるのです。

ここには、夜勤における労働時間の制限だとか、夜勤における休憩のあり方とか、夜勤と次の勤務の時間的間隔をどれくらい置くかとか、そうしたことについての問題意識は存在しないのです。

 看護師の勤務や、深夜労働に時間のかかる夜勤のあり方については、国際労働機関(ILO)で締結された条約や、同機関が発表した勧告があります。「看護職員の雇用、労働条件及び生活状態に関する条約」 ILO第149号条約や、それを補足する「看護職員の雇用、労働条件及び生活状態に関する勧告」 ILO第157号勧告、「夜業に関する条約」 ILO第171号条約や、それを補足する「夜業に関する勧告」 ILO第178号勧告がそれです。

 しかし、日本は、これらの条約に批准しておらず、これらの条約や勧告も、国内の法規範としては通用していないのが現状です。

 以上の内容により、ご質問に対する回答としては、「法律違反とはいえない」ということになるわけです。

 ただ、そこで終わってしまってよいのでしょうか。それは違うと思います。

 現在、なんらかの問題について法律が存在しないことは、立法政策の問題として、いかなる法律をつくるか、つくらないかについて国会の裁量にゆだねられている場合と、立法の必要性は明らかであるのに、国会が何らかの理由で立法にこぎつけておらず、あまりに放置される時間が長いと立法をしないことが違法となって国家賠償請求の対象となる場合とがあります。

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後者の場合として有名なのが、ハンセン氏病国家賠償請求訴訟で、2001年、熊本地裁は国会がらい予防法を廃止しなかった立法の不作為が、国家賠償法上の違法行為に当たるとして、国に、ハンセン氏病患者(元患者を含む)に対して賠償を命じました。

国が控訴しなかったため判決は確定。就任したばかりの小泉純一郎首相(当時)が、患者たちに謝罪して解決を図ったことで有名です。国会もただちにらい予防法を廃止しました。

 このように、立法の必要性が明らかなのに、長期間法律を定めなかったことは、それ自体違法になることがあるのです。

 省みるに、夜勤については次の危険性が指摘されています。

(1) 健康リスク=人間が本来持っている生体のリズムに反して夜間に働くことで生じる健康上の危険(睡眠障害、疲労、ストレス、循環器疾患、乳がん)。

 とくに、近年の研究で、夜勤が発がんに与える関係について明らかになってきています。

(2) 安全リスク=医療事故や看護師の帰宅時の事故、夜間通勤時の保安上の危険。

(3) 生活リスク=不規則勤務や土曜日、日曜日に休めないことなどから生じる社会生活上の危険を指し、家族との時間が確保できないことによる家族の負担、趣味の集会に参加できない、あるいは睡眠不足の状態で参加することの危険。

 これらの危険は、いずれも夜勤に従事する労働者の、人間としての生命や健康の維持や、人格の発展にとって危険性があるという内容です。

これは、日本国憲法第13条が、「個人の尊厳」を憲法最高の価値としていることを脅かす内容です。憲法を最高法規とする国として放置できる危険性ではありません。

 また、労働者の命と健康の保持それ自身については、法律が実現すべき政策目標としていることは明らかです。

 労働者の安全に関しての基本法令は、労働安全衛生法です。この法律では、事業者に対して、職場における労働者の安全と健康を確保することを命じています。

「事業者は、法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにし、また、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力する。」(労働安全衛生法第3条1項)

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 そして、労働契約の一方当事者である使用者には、労働契約法で、安全配慮義務が定められています。 「使用者は、

労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」(労働契約法第5条)

 なお労働契約法は労働契約を締結した場合に適用される法律ですが、同法の内容となっている安全配慮義務は、地方公務員の場合にも自治体に当然に課される義務と解されています。

 さらに具体的には、労働安全衛生法は、夜勤をする労働者の健康確保措置の定めを置いています。

 すなわち深夜労働に従事し、一定の要件を備える労働者は、自ら受けた健康診断の結果を証明する書面を事業者に提出でき、提出を受けた事業主は、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置など、適切な措置を講じなければならないのです(労働安全衛生法第66条の2〜5、労働安全衛生規則第50条の2、3)。

 以上の危険性の存在や法の考え方に鑑みれば、夜勤については、その労働時間の上限、月間における回数の上限、夜勤の際の休憩時間の時間やあり方、夜勤と次の勤務の間の時間的間隔、安全衛生のための措置について、実効的な法規制を整えなければならない状態であり、事業主は、労働安全衛生法第3条に従い、自主的に労働者の健康と安全を確保するために夜勤の負担の是正措置に乗り出すべきといえるでしょう。

 看護師の労働条件について定めるILO149号条約が成立したのは1977年。

夜業についての171号条約が成立したのは1990年です。その他の国際的な規制や見解が、遅くとも2000年までにはまとめられていることを考えると、2014年の今日、既に夜勤の法的規制を整えるべき十分な時間が経過したと言うべきでしょう。

 現場の看護職のみなさんとしては、労働安全衛生法第66条の2以下の規定に従い、健康診断を行ってその結果を事業主に届け出、対応措置を求めることを運動としたり、同法3条の履行を迫る団体交渉を行う、政府や国会に対し、法規制を策定するよう求める運動をさらに強化するなどの方法で、組合の運動をさらに強くしてもらいたいと考えます。

                                以 上

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