都庁職病院支部 16時間夜勤疲労度調査

夜勤には発がん性がある!夜勤手当の大幅な増額を 

病院支部

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コンビニエンスストアで、ファストフード店で、インターネットで注文された商品を翌日に届けるために、そして行楽地まで安く移動するための夜行バスで、多くの労働者が夜勤労働に従事している。このように確かに夜勤に従事する労働者は増えている。

しかし、夜勤労働には発がん性がある。そして夜行行楽バス事故に明らかなように、夜勤には事故リスクがある。

夜勤の発がん性はIRAC(国際がん研究機関)が指摘する科学的事実である1)。

一昨年IRACが携帯電話の発がん性を指摘したことをマスコミが取り上げ大きな話題になった。

携帯電話の発がん性は、5段階評価で上から3つめのグループ2B「発がん性があるかもしれない」。

これに対し夜勤は2A、上から2つめで「発がん性がおそらくある」である。同じくグループ2Aに分類されているのは、DNAを攻撃することにより抗がん作用を有するが、同時に発がん性も有する抗がん剤であるアドリアマイシン、シスプラチン等である。

薬事法が定める毒薬である抗がん剤と同じ有害性が夜勤にはあるということである。今後、さらに研究成果が蓄積されていけば、夜勤はアスベストやカドミウムと同等なグループ1に分類されることは確実視されている。

病院や、公共サービス以外でも夜勤に従事する労働者が増えたことを理由にして、病院における夜勤が特殊なものではなくなったので夜勤手当を減額するという前回特殊勤務手当改訂時の都の判断は、以上の科学的事実により大きな誤りであったことは明白である。特殊勤務手当の支給基準が「著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他著しく特殊な勤務である事」であるならば、発がん性のある夜勤に従事する看護師の夜勤手当が、前回の改訂で35年前の水準に引き下げられたことは科学的根拠を欠く瑕疵のある決定であると言わざるをえない。

 夜勤の発がん性を高める原因の一つに、青色光の問題がある。

電子カルテの普及により看護師は24時間PC端末と向き合っているが、PC端末からは可視光線のなかでもエネルギーの強い380~495ナノメートルの光「ブルーライト」2)が出ており、電子カルテを操作する看護師の網膜を直撃することで、抗酸化作用を持つメラトニンの分泌抑制3)、体内時計の失調4)により発がん性が生まれるのである。

このような、科学的事実が明らかになっているにも関わらず、電子カルテのなかった時代と同額の夜勤手当を強制することは倫理的にも許されないし、「ブルーライト」の有害性が立証されているにも関わらず、そのことに対する処置をとらず、しかも夜勤手当を減額したまま据え置くことは、労働安全衛生法65条の3「事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない」に抵触する可能性があり、労働契約法5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」という法の趣旨に抵触するものである。

私達、病院支部が衛生局支部等と共同で行った16時間夜勤疲労度調査でも、夜勤中のメラトニン分泌が少ないことが明らかになっている5)。

夜勤に従事するということは、以上のように発がん性のような健康リスクと夜勤手当を交換するということである。しかし看護師の場合、夜勤労働は健康へのリスクに加えて医療事故へのリスクがそれに加重される。

私達が行った調査でも、2交代を行う看護師の4人に1人は、自らの間違いに気がつかないような深刻な眠気に襲われていることが明らかになっている6)。

このように看護師は、夜勤の身体的ストレスに加え、医療事故へのストレスをも背負い込まされている。

この深刻な状況は、看護師の退職理由の3大要因が、長時間勤務、夜勤、医療事故への不安であるとした日本看護協会の調査でも明らかである。

看護師は、長期的には健康へのリスクを、短期的には医療事故へのリスク対するストレスを蓄積して退職に追い込まれるのである。

現状でも都立病院の看護師は欠員が多発しているが、看護師の労働条件の抜本的解決策をとらず、このまま「厚労省5局長通知」も指摘する劣悪な労働条件を放置することは2025年を待たずに、看護師不足により都民への安定的な医療提供が崩壊することに直結する。

このような状況下で、夜勤手当を35年前の水準に据え置いたまま、電子カルテ導入により発がん性が高まった夜勤と、医療密度の高まりにより医療事故と紙一重のストレスフルな状態に看護師を放置することは倫理的にも許されないし、労働安全衛生の観点からも労働法規に抵触する事態であると私達は考える。

大幅な夜勤手当の増額と、2人夜勤職場の解消など夜勤人員の増員を要求する。

1)International Agency for Research on Cancer. IARC monographs on the evaluation of carcinogenic risks to humans. Painting, firefighting, and shiftwork. Lyon, International Agency for Research on Cancer, 2010.

2)Lockley SW, Brainard GC, Czeisler CA. High sensitivity of the human circadian melatonin rhythm to resetting by short wavelength light. J Clin Endocrinol Metab.2003;88(9):4502-5.

3)Blask DE, Dauchy RT, Sauer LA, Krause JA, Brainard GC. Growth and fatty acid metabolism of human breast cancer (MCF-7) xenografts in nude rats: impact of constant light-induced nocturnal melatonin suppression. Breast Cancer Res Treat. 2003; 79(3):313-20.

4)Erren TC, Reiter RJ, Piekarski C. Light, timing of biological rhythms, and chronodisruption in man. Naturwissenschaften. 2003; 90(11):485-94.

5)佐々木司,南正康,山野優子,松元俊.看護師が16時間夜勤中にとる仮眠時の尿中メラトニン量.産業衛生学雑誌 54(suppl.);363.

6)大利英昭 飯島芳子 南田昌枝 松村さやか.16時間夜勤における忙しさとPVTの関係.第42回日本看護学会抄録集 看護管理 222