現場からの声 コロナと闘う都立・公社病院に忍び寄る独法化の影

 ー6.16YouTubeライブ配信ー

都民のいのちと健康を守る都立・公社病院の独法化に反対する立場から、都知事選に向けて独法化問題を考える番組を配信しました。

出 演

  • 千葉かやと(病院支部支部長、駒込病院看護師)

 

  • 大利英昭(病院支部書記長、駒込病院・看護師)

 

  • 尾林芳匡(八王子合同法律事務所弁護士、公共サービスの民営化問題、自治体病院や公共、地方自治体が行っているサービスを民間に委託問題を研究専門)

 

  • 藤田和恵さん(ジャーナリスト、貧困や病院の現場を長らく取材)

 

■1.コロナ発生からの経過と東京都の対応

〇大利: 東京でコロナの感染が確認されて以降の問題を整理してみました。

小池都政コロナ年表
東京で最初に感染が確認されたのが2月13日。オリンピックの延期を決めた3月24日までの1カ月半ぐらいの間、東京都として目立った動きは何もありませんでした。
東京都では今もPCR検査の数が十分でないということが問題になっていますが、東京都だけで検査ができないのであれば、民間の研究機関や検査機関と契約を結んでPCR検査の数を増やしておく準備をしておくとか、防護服を都立病院に十分蓄えておくとか、そうしたことがいくらでもできたのではないかと思います。オリンピックの1年間延期を決定したとたん、小池都知事は、コロナ対策に全力で取り組んでいますというようなパフォーマンスを繰り返すようになりまして、ロックダウンとか、オーバーシュートというような横文字をいろいろ使って、いかにもやっていますという感じを演出してきました。都民の皆さんの命の危機に対して、東京都がいかに緊張感を持って対応してこなかったのか、現場を取材してこられた藤田さんからコメントお願いしたいと思います。

〇藤田:確かにあの安倍政権の敵失と、小池知事の見出しに立てやすい言葉に引っ張られている人はいると思います。

これは私が取材をしている東京都庁の建物の下で毎週末に行われている無料の食事提供の光景です。NPO法人もやいなどが中心になってやっている活動ですが、毎回のように東京都の警備員の方から文句を言われています。

ここで並んでは駄目だとか、並び始める時間帯が早すぎるとか。先々週は、嫌がらせのように写真撮影までしています。5月以降、この無料の食事提供の利用者はおよそ180人と言われています。これは通常時の2倍です。

本来ならば東京がやらなければいけない支援を、民間団体が代わりにカバーしているわけですから、むしろ東京都は協力したり感謝してもいいはずなのに、やっていることは結構、真逆です。

小池都知事は、この間の記者会見等で「補償と休業はセットで」といったことを言ってますが、その足元では一番生活に困っている人、本来ならば公的支援を真っ先に提供しなくちゃいけない人の命綱を断ち切るようなことをしているのではないかと感じています。

〇大利:この6月13日のときには、土砂降りの雨の中、都庁の1階に集まっていた支援者や、食事を求めて集まってきた人々を雨の中に追い出そうとしたということで非常に批判が高まっています。このような都政のあり方を見ていると、小池都知事が言っている都民の命は大切というのは本当なのだろうかというふうに、思ってしまいますね。

■2.コロナ対応にあたる都立病院

〇大利:都立病院は、石原都政の前(1999年)までは16あったのですが、今はリストラされて8つになっています。そのほかに、都立・公社病院の地方独立行政法人化された公社病院が6つあります。4つの病院はもともと都立病院でした。石原都政の時代に、この公社というのは都立病院のリストラの受け皿になってきたという歴史があります。

小池都政がパフォーマンスばかりで全然コロナ対応できていなかった時に、都立病院、公社病院はどういう対応をしたのでしょうか。

感染が拡大する前、都内にある感染症指定医療機関は全部で11ありました。そのうち4つが都立病院と公社病院で、病床数は約68%を占めていました。

東京都は5月22日までに民間の医療機関も含めて3,300床まで増やすとしました。実際に3,300床用意されたわけではないのですが、都立・公社病院はこの間、非常に頑張って対応して、3,300床のうち26%にあたる777床を用意しています。わずか約3カ月の間に、約10倍までコロナ対応病床を増やして頑張ってきました。

ところが、コロナ感染が拡大するさなかの3月31日に、小池都知事は都立・公社病院まとめて14病院を地方独立行政法人にするということを正式に決定しました。現場では本当に地方独立行政法人にしてしまってコロナの医療ができるのか、都民の命を守れるのかという不安の声が広まっています。

■3.都立・公社病院で働く組合員の手紙

〇千葉:実際、組合員から手紙が届いていますので紹介します。

  • 「今回のコロナでも以前の11の地震のときも、都立病院には患者さんが集まってきました。そういうときに大変な思いをして対応するのは、偉い人たちではなく現場の職員です。頑張っている現場の職員の待遇を下げる独法化には反対です。そして、都立病院の体質が独法化で儲け主義となれば弱者の患者さんが行くことができる病院がなくなってしまいます。」

 

  • 「都の職員という立場であるから都民のために使命感を持ってコロナ感染と闘っています。都立病院を独法化するなんて、都合よく使われて切り捨てられる感じです。都立病院の独法化反対です。白紙に戻してください。」

 

  • 「都立病院がなくなること、独法化されることを知らない都民は多い。納税者の都民が東京都から都立病院がなくなることを知らないまま、納得していないまま、強行してよいのか疑問。」

 

  • 「COVID-19問題で自治体直営の医療機関の存在が必要不可欠であることが実証されたのでは? 独法化で成功している例はない。美辞麗句で文章をつくり、目くらましするのはやめてください。事務の偉い方々、間違った施策を撤回する勇気を!」

〇大利:このような組合員の強い危機感が、都知事選を前にして、必ずしも都民の皆さんに共有されていないのではないかという強い危機感を持っています。

■4.独立行政法人化とは

〇尾林:まず地方独立行政法人になるとはどういうことかというと、この図でいうと左側の流れが今の直営の都立病院です。

都民や都議会の声や意見を受けて、東京都が直接、方針や人事、予算について各病院に伝えていくというようなことになっています。

これに対して、地方独立行政法人は、実際の仕事はあまりしない少人数の理事会が、都民や都議会の意見を聞かないで勝手に素早く方針を決めてしまう、この理事会組織が各病院を管理、コントロールしていくということになります。

そのため都民、都議会の意見がなかなか医療の現場に届かなくなります。

また医療の現場の声も議会などに伝わりにくくなり、例えば、採算の取りにくい分野の病床を減らしたり、健康保険法の縛りのない病院が単独で決められるような部分、利用料金の負担なども今までなら都議会で議会の条例変更が必要だったのに、理事会だけで次々と値上げをして住民の負担を増やしていくというような問題が起きます。さらに働いている人たちの権利や労働条件についても危うくなっていくという問題があると思います。

〇大利:ここで患者さんのインタビューをご覧いただきます。お一人目は、奨学金制度が専門の元聖学院大学政治経済学部教授の柴田武男さんです。

〇柴田:3年ほど前に抗がん剤治療を終えて、がんサバイバーとして今、元気に社会復帰していて、私にとって都立駒込病院は命を救われた大切な病院だという認識です。日本学生支援機構が独立行政法人になったのは2004年。学生支援債という債券を発行して、それが売れるかどうかで組織の存続を図ろうというやり方を取りました。大学を卒業して半年後の10月から返済が始まるわけです。

卒業生には、個別のいろんな事情があるわけですけども、その事情は無視して、とにかく回収をして不良債権を減らすと。これが組織の至上命題になったわけです。サラ金よりたちが悪いのです。

サラ金よりたちが悪い学生支援債

2つ理由があります。1つはサラ金のやる任意整理。任意整理というのは例えば100万貸したけど50万しか返せないと。では50万にまけてあげるから、残り50万を何とか返せと。こういうのが任意整理です。

それからもう1つ、サラ金に関しては貸金業法というのがあって、その返済能力に応じて貸すのが原則です。高校生で大学も、就職先も決まってない。どんな仕事をするか分からない。ですから入口は奨学金です。しかし出口で返済が始まったら、これは金融業者になるわけです。この入口と出口のねじれというのが奨学金問題をより深刻化させているわけです。

もうける病院か、治療を優先する病院か

地方独立行政法人に関しては債券発行は認められていませんから、その辺は若干違うのですが、ただ、地方独立行政法人法には専門的になりますが2点、注意すべき点があります。1つは企業会計原則です。そのあとの81条というのが大変問題で、これは企業の経済性の発揮というのが明記されていて、少なくとも奨学金とか病院事業においてはマイナスしかないと理解しています。

その経済性を発揮してもうける病院に行きたいですか?

それとも治療を優先して赤字を出す病院に行きたいですか?あなたは病院を利用するとしたらどちらを選びますか? こういう話になります。

もちろん私の健康も含めて病院を利用する方々にとっては、経済性を全く無視しろとは言いませんけども、患者の健康、それを治すということが優先される組織でなければおかしい。

合理化というと、つまり経済学でいうと稼働率という話になるわけです。稼働率100パーセントが理想なわけです。しかし稼働率100パーセントを平時の場合に設定してしまったら、当然こういうコロナの問題とかが出たらたちまち対応できなくなり、医療崩壊してしまいます。ですから、今のようにPCR検査は抑制せざるを得ないという全く逆の向きになってしまうわけです。はっきり言って病院施設というのは余裕がなければならない。つまり無駄がなくては、いけないわけです。

労働組合というか、その労働者がものを言う権利の大切さです。言いたいことはきちんと言える、そういう社会でないと、本当に間違ったら取り返しがつかない恐ろしさを感じます。

〇大利:独法化されてしまえば建物や働いている人が仮に同じだとしても、組織の目標が利益を上げることになってしまって病院の医療そのものが変わってしまうという、そのような危険性が潜んでいるんですね。

地方独立行政法人になると医療が充実することはない

〇尾林:まず、地方独立行政法人というのは、ひとことで言うと行政からの交付金を減らしていくための仕組みです。議会によるコントロールはこれまでの3年から、5年という中期目標期間ごとにしか、審議がされないということになり、そのときに組織のあり方や業務の全般について見直しをして、場合によっては解散も含めてリストラ、合理化をやっていくという法律になっています。組織によっては毎年1%ずつ削ってきたところもあります。

そもそも、この地方独立行政法人法を最初につくったとき、その総務省の研究会報告書には、事務・事業の「垂直的減量」を推進する地方行革にとって「機動的・戦略的に対応するための道具」だと書いてありました。

「垂直的減量」というのは仕事を官から民へ、民から廃止へと移していくことで、「機動的・戦略的」に行革を進める道具だというのは、リストラ、行革に便利ということです。

現在、都立病院は診療科を閉じるとか、職員の給与も給与表が議会の条例として定められているので、議会で慎重に審議をしなければ動かせませんが、地方独立行政法人になると、どこそこを廃止するとか、場合によっては一つの病院を廃止することも議会にかけないで独立行政法人の少人数の理事会で素早く決められてしまうことになります。

問題点をまとめると、住民サービスは後退します。利用料のアップや病床削減、差額ベッド化によるお金もうけ主義への変質などが起こってきます。仕事を確実に実施するということになりませんし、場合によっては十分に財政削減を期待できないときは組織の縮小や解散で脅しがかけられるということになります。

これにより、住民自治、住民参加は後退しますし、議会の関与も空洞化します。そして職員や働く人たちの身分保障と権利が剝奪されるということですので、私は地方独立行政法人というのは充実した医療サービスを提供する上でも、職員の方たちの働きやすい職場を守っていくという点でも、大変、問題の多い法制度だと思っています。

〇大利:地方独立行政法人になると医療が充実するというような東京都の言い分は何ら根拠がないということですね。

 

〇尾林:都の言い分は全くうそです。

■5.独法化した大阪府立病院では?

〇大利:先行して府立病院を独法化してきた大阪の事例を藤田さんが取材しています。

 

〇藤田:一足先に独法化された大阪府立病院では、医業収益に占める給与費比率は目標通り50%まで下がって、一方で入院単価は約6万5,000円と、独法化前の2倍に上がったと言われています。要は人件費を抑えて、もうかる病院に見事に変貌させたということです。

一方で、現場では、採算性を優先するあまり、本当にこの人を退院させて大丈夫かなと思うような人を退院させて、夕方にまた同じ人が担ぎ込まれるというような事態も起きていると聞いています。

大阪の急性期・総合医療センターの、がんの手術をした70代の男性のケースでは、手術後に、「即退院してください」と言われています。男性の奥さんの話では、男性の容態はとても退院・転院に耐えられるような状態ではなかったそうです。結局、この男性は退院予定日の数日前にこのセンターで亡くなりました。奥さんは、「夫が早く死んでくれてよかった」と言いました。つまり転院で苦しい思いをさせるぐらいなら、いっそ早く死んでくれて本当によかったということです。

経済性を発揮してもうかる病院になるために、自分の家族が早く死んでくれてよかった、と言わせるような病院に皆さん行きたいのかという話だと思います。

大阪府のコロナ対応

〇藤田:大阪府立病院では感染者を受け入れるにあたって、ベテランの職員を中心に希望者を募って対応したと聞いています。ところが、独法化以降は労働条件が悪化していて、働き続けられず辞めていく人が毎年増えていて、そもそもベテラン職員がいないということで、人繰りについてはこれまでになく苦労したと聞いています。

〇大利:地方独立行政法人というのは、患者さんも職員も誰も幸せにすることはない制度だということがよく分かるお話ですね。

■6.442の公立病院の統廃合について

〇大利:ここで2人目の患者さんのインタビューをお聞きいただきます。地域でALSを抱えながらケアを受けて暮らしていらっしゃる佐々木ご夫婦にお話を伺ってきましたので、皆さんご覧ください。

〇佐々木:医療の面の重要な役割、価値を知らないで統廃合してしまうということに怒りを感じます。神経病院の重要性。発症してからいつも一貫して、神経病院は自分にとって命のふるさとだ、やっと生きる希望を見いだしたというか。ALSの告知というのは、やはり死の宣告ですから。それから、うちは24時間ヘルパー体制なので1日に訪問してくれるヘルパーが10人前後。

ですから、そういう人たちのPCR検査が必要だと切実に思いました。医療と介護のところは本当にもっと手を尽くしてほしいです。美濃部都政のときのように地域の中核であるべき。

看護師比率も国に範を示してほしい。5対1を当面やってほしい。目指してほしい、拡充してほしいということです。充実させて。

〇佐々木:そうです。神経病院はいつまでも命のふるさとであってほしい。お願い。

〇大利:佐々木さんにとって神経病院が大事な病院であるかというのが、命のふるさとという言葉から伝わってきたと思います。ところがこの神経病院は、昨年発表された、非効率なので統廃合していい病院のリストの424病院の中に入っていました。

大事な病院がどうして統廃合の対象にされてしまうのでしょうか?

厚労省が名指しで整理・統廃合を検討を指示

〇尾林:昨年9月に厚生労働省が発表した全国の424の公的病院を名指しして再編を検討せよと言ったことについては、全国に大きな衝撃が走りました。どの公的病院も、それぞれの地域で命のとりでとして大切な役割を果たしているわけですけれども、厚生労働省が名指しで整理・統廃合を検討せよと言ったことで、多くの地域住民が不安になったと思います。

そもそも総務省なども、しばしば地方行革を進めよという通達文書などを出すのですが、それらはどれも小さな字で地方自治法に基づく技術的助言をしているだけであって、決めるのはあくまでも地方自治体自身という建前のもとに、地方行革は推進されてきたのです。

ところが今回の厚生労働省のこのリスト公表は、そのように地方自治体自身が行政改革を進めることを促したり助言したりするというスタンスを踏み越えて、乱暴に、おたくの地域、おたくの自治体のこの病院は非効率だ、整理を検討せよという形で踏み込んできたところに重大な問題があったと思います。

半面、今回のリスト公表を受けて、地元の地域医療を守ってほしいと、統廃合計画に反発する住民運動が各地で盛り上がっているというのも、もう一つの特徴だと思います。ですから公的病院を守る、国民的な世論も高まっていると感じています。

東京でこのリストで名指しされたのが台東病院、それから奥多摩、それから八丈島など地域で大切な役割を果たしている病院です。併せて神経病院という、まさに重大な神経疾患の患者さんにとっては命とりとなる大切な病院についてまで非効率だと整理を促す、政策を厚生労働省自身が打ち出してしまっている点でも問題です。今コロナの問題で、あらためて公的病院が大切な役割を担っていることが明らかになっています。この424の名指しリストをしゃにむに強行するということはさすがに許されないという世論も高まっているので、今後の世論の動き次第で、このような公的病院の乱暴な再編の動きに歯止めをかけたり転換したりできるのではないかと私は思っています。

〇大利:尾林先生のお話の中で奥多摩病院というのが出ましたが、小池都知事は4年前の都知事選挙のときに多摩格差ゼロというようなことを言っていたにもかかわらず、奥多摩病院が再編・統合のリストに入ったことに対して、国に一言の抗議のメッセージを送らなかったというのが、小池都知事が言う都民の命は大事という言葉がいかにうわべだけかというのがよく分かったと思います。

■7.コロナ対応、独立行政法人と都立病院ではどう違う?

〇大利:独立行政法人と都立病院では、例えばコロナ禍に対する対応が具体的にどう違ってくるのでしょうか

 

〇尾林:地方独立行政法人というのは半分お金もうけ主義に傾斜するということなので、ベッドに空きがあったら収益は上がらない。ですから病床利用率を極限まで高めようとする。余裕のない状態を平時から作ろうというのが地方独立行政法人のどこでも起きていることです。もし、そのように平時から余裕のない状態で少しのベッドの空きも無駄も出さないで稼働させるという方針に走っていれば、コロナなどの感染症がまん延したときに緊急に対応することは、まず不可能になります。

ですので、公立病院、都立病院の役割というのはかけがえのないものと思います。実際、私の聞いた話でも、民間のかなり大手の病院でも、都からコロナ患者の受け入れを要請されましたが、経営効率的に採算の面で受け入れられないと言って断ったと聞きます。

例えば病室に1人コロナの患者さんを受け入れれば、周辺のベッドを空けなければならず非効率的という理由です。地方独立行政法人というのは完全民営化ではないですが、そのような採算優先の考え方に傾斜しますので、まずコロナ対応は無理非常に難しくなるのではないかと思います。

〇大利:通常からゆとりがないとコロナのような突発事態には対応できないと。この間、都立・公社病院は3カ月ぐらいの間に約10倍にベッド数を増やしてコロナの患者さんを受け入れてきたわけですが、やはり地方独立行政法人化されてしまうと、そういった病院運営はできなくなるというお話ですね。

ここで、もう1人、患者さんの声を紹介します。これも駒込病院の患者さんで、大館さんです。

〇大館:私、一昨年3月に前立腺がんが見つかりまして、6月に駒込病院で前立腺がんの全摘手術を受けました。

しかし取り切れずにがんが残っているため放射線治療とホルモン治療でずっと病院に通っていたわけです。

そうしたら、あるとき病院の前で「都立病院の独法化反対」という署名運動をやっている人たちがいたので署名しまして、初めて都立病院にこういう問題が起きているんだということを知りました。

新しい人と長年勤めている人たちが一体となって働くことで初めて私たち患者にいろいろな医療ができると思いますので、長く勤めていた人たちの給料が高いから問題という言い方については、やはり納得できないところがあります。

最終的には、おそらく民間の病院にしようとやっていると思いますけれども、コロナの問題ではっきりしたのは、都立病院は弱い人たちや今度のコロナの感染のときには多くの感染した人たちを引き受けて医療体制が成り立っていると思うのですが、採算性の取れない分野も含めて治療するということが全体の医療の問題だと思います。

採算性といっても、特に都立病院は赤字ではないと知りまして、独法化で医療体制を壊していくことは、やはり納得いきません。自分の入院なり治療を受けた経験から、やはり都立病院の独法化は絶対に許せないと思います。働いている皆さんと一緒に、このことについてきちっと考えて、声を上げていきたいと思います。

■8.働く人の労働条件はどうなる?

〇大利:働いている人の労働条件は独法化でどうなるのでしょうか?

 

〇藤田:このパネルはPFI化された都立駒込病院のスキーム図なんですけれども、協力企業というところに注目してください。

病院には、お医者さんとか看護師が担う仕事以外にも、施設警備とか医療事務、給食、調理、清掃など周辺業務とかノンコア業務とも言われる業務があります。当然こうした仕事がなければ医療現場というのは回らないのです。しかし、ここで働く労働者というのは病院に直接雇用された人ではないことが多く、病院が外部委託した民間企業が雇用する、多くは非正規労働者ですね。しかも年収200万円以下のワーキングプアも相当数います。

それどころか、脱法的な労働環境で働かされている人も少なくありません。例えば、病院の直接雇用から外部委託に切り替わったことで350万円あった年収が一気に200万円まで切り下がってしまった調理師とか、10年以上働いてもずっと時給は最低賃金のままだという医療事務の女性とかです。

医療事務や清掃、給食は再々委託で、実際に最低賃金を下回る時給しかもらっていないという人もいます。調理の現場では、備品を壊すと罰金として支払えと言われたりするのですね。その分を収入から差し引くと結果的にそのようになることがあります。

労働時間が短い人ももちろんいるのですが、フルタイムで働いていても違法、脱法的な働かされ方をされた結果、年収200万を下回るという人もいます。

あるいは受注する業者が落札金額はそのままにする代わりに業務を2倍引き受けますという、とんでもない契約を結んだあおりを受けて、掃除するスペースが倍に増えたが給料は変わらないというような清掃員の方などがいます。社会保険がないからと、ずっと無保険状態に置かれた調理補助の方とかもいます。

こうした、医療の周辺業務の現場では、とんでもない働かされ方の事例というのはいくらでもあります。こうした人たちが、自分たちの働かされ方はおかしいと声を上げた場合はだいたい雇い止めになります。ほとんど労働組合もありませんし、極めて不安定な身分雇用に置かれているのです。

労働条件は医療サービスの質にはね返る

そして、重要なのは、これは働いている人の労働条件だけの問題ではないのです。どういうことかというと、先ほど例に挙げた清掃員の方の事例ですと、掃除する場所が2倍に増えればその人が手を抜かなくても、時間的、物理的に十分な掃除は無理です。病室の掃除などもです。こうした劣悪な労働条件に置かれると、職場というのはすさむのです。

その結果、パワハラとかセクハラが横行して、ミスをなくそうという心の余裕がなくなります。ある調理の現場では、委託業者が切り替わったことで労働条件が切り下がり、それ以降、例えば病院食の取り違えとか、食事の中に小虫、コバエとか髪の毛といった異物混入に対する苦情というのが、その労働条件が切り下げられたことを境に、明らかにそうした苦情が増えたというような事例もあります。

つまり、こうした非正規労働者の働かされ方の問題というのは、私たち市民、患者が受ける医療サービスの質の問題として、即、私たちにはね返ってくるということです。独法化されますと、さらなる採算化というのは絶対求められますので、業者に対する委託費というのは下がることはあっても上がることはないです。つまり、働いている人たちの労働条件の悪化というのは、独法化されることによって、さらに拍車がかかることは間違いないと取材を通じて感じています。

〇大利:つまり、地方独立行政法人化によって安く病院を運営しようとすると、そこで働く人の労働条件を壊し、その結果サービスの質の低下にも結びつくというお話ですね。

■9.独法化の先行事例

〇尾林:大阪府立病院では2006年に13億円の黒字を出しましたが、どうやって稼ぎ出したのかというと、初診料を1,701円から2,625円に値上げしました。セカンドオピニオン料を7,000円から2万1,000円に値上げしました。母子センターなどの分娩料を値上げしました。手術件数の目標管理や入院日数の短縮、病床利用率、●上昇??の管理をするなど、採算優先の病院運営を理事会で議会にもかけずに次々とやりました。

国立病院も独立行政法人化されましたが、行政の出す運営交付金75億円が短い期間に2億円にまで減らされて、多くの診療科を維持できなくなりました。経常収支は黒字で、純利益が495億円も上がったそうですが、ベッド数は4,952床も減らしたそうです。欠員が出て人件費も減っています。そのほか差額ベッド代が大きく増えるということで、お金を取る病院に変質しつつあるということです。

神奈川県立病院も地方独立行政法人化されましたが、神奈川県の財政負担が2009年に132億円だったものが、地方独立行政法人化後の2017年には99億円にまで大きく減らされて、いわば経営で採算を取っていく方向に傾いていることが明らかです。

東京都が先行して唯一、地方独立行政法人化した健康長寿医療センターは、ベッド数が最も多いときで711床あったものが150床も減らされてしまいました。ここでも差額ベッドの比率が上昇して25%にもなっています。ですから健康保険の負担だけでは入院できないようなベッドが増えてしまっています。最も高い差額ベッド代は1泊2万6,000円ということで高級ホテル並みの高価なもので、こういうことを都立病院が税金で設立されてやるというのは本来のあり方ではないと思います。入院保証金も個室については10万円を徴収しているそうです。一般の都民にとってベッド数が減った上に費用負担の点でも利用しにくい、狭きベッドになっているのが、先行する独立行政法人ではないかと思います。

〇大利:この健康長寿医療センターというのは、もともと、養育院という親しみやすい名前だったのですが、そもそも養育院時代には有料個室はなかったのです。結局、先行した地方独立行政法人の病院で地域住民のために役立っているような病院はないということですか?

〇尾林:そうです。直営のときよりも住民奉仕の姿勢は後退し、お金もうけ、採算優先のほうへ傾斜している実態がどの独立行政法人でもあると私は思います。

■10.雨がっぱは、なぜ集められた?

〇大利:今回、コロナ感染が広がる中で、松井大阪市長が、防護具が足りないので雨がっぱを寄付で集めて病院の防護具に代えたいというような非常にショッキングな、そして無責任な政策が取られました。雨がっぱを集めるという、市民の人の熱意に頼るような、そういう政策が何か美談にすり替えられてしまっているのですが、実際、大阪で何が起こっているんでしょうか?

〇藤田:はい。雨がっぱについては医療現場の評判は相当悪かったと聞いています。段ボールに入れられて市役所にたくさん積み上げられている雨がっぱですが、結局は使えないということで今は市内の小中学校に無料で配布されているそうです。

医療用ガウンとかエプロンというのは脱ぐときに感染する可能性が高いと言われていますので、素早く脱げなくては駄目だと言われています。結局、雨がっぱというのは感染防止にはならないだろうという理由で、医療現場ではあまり使われなかったと聞いています。

6月4日付で大阪市教委が各学校長宛てに出した事務連絡には、「雨がっぱが余ったので(余ったとは書いてないのですが)市役所に取りに来てください」と書かれています。独法化の弊害の一つとして、物事が悪い意味でトップダウンで決められていくようになるとも言われています。議会のチェックを経なくても物事を決められるようになるからです。

意思決定が民主主義的じゃなくなる、現場の声が反映されづらくなるという問題が起きがちだと言われています。

雨がっぱは防護服として使えないという、現場の意見が知事とか市長とか上に届かず、病院の理事長のパフォーマンスに現場が振り回されてしまうという点で、今回の雨がっぱを巡るドタバタというのは独法化された組織の体質を象徴する出来事だったのではないかと感じています。

■11.都知事選で独法化を止めよう!

〇大利:この間、小池都知事がコロナの対応を巡って、良くやっているではないかという評判が上がっているそうですが、私たちとしては、都立・公社病院をこのコロナ禍で独法化していいのかという声がたくさん寄せられているなか、口では都民の命が大事だと言いながら、独立行政法人化という方針を改めない。そういう政治のあり方、そろそろそういう政治にさよならすべきときが来ているのではないのかと思います。

ここで、次のメッセージを紹介したいと思います。7月5日投開票の東京都知事選に立候補予定の宇都宮けんじさんから、この番組にメッセージが寄せられていますので、皆さんご覧ください。

〇宇都宮:都政の最重要課題というのは、新型コロナウイルス感染症を予防して、医療体制を充実し、そしていかに自粛・休業に伴う補償を徹底するかということが極めて重要だと思います。私は、その緊急課題の1として医療体制の充実と補償の徹底ということを挙げました。

この間、都政や国の政策では社会保障を削減し、医療体制を合理化・統廃合してきた結果、日本の医療体制の脆弱(ぜいじゃく)性が明らかになったのが今回のコロナ問題だと思います。

日本の医療体制の脆弱性を明らかにしたコロナ

特に保健所です。ピーク時、全国で852カ所あったのが、今は469カ所に減らされています。公衆衛生の拠点になる保健所を削減し、人員も予算も削減してきたことが今回PCR検査が伸びないなどの問題の大きな要因になりました。国民、都民の命や健康を守るための医療体制の充実を怠った結果が今回の事態だと思います。

小池都知事は、2020年の12月の都議会の所信表明で、いきなり都立・公社病院の独立行政法人化ということを打ち出し、この方針を今も変えていません。独立行政法人化というのは、経済合理性だけで病院を運営しようというので、実質的な民営化につながるのです。過去に独立行政法人化した公立病院についても、働いている人の労働条件や賃金を下げたり、あるいは患者負担を重くすることによって経営の合理化を図ろうとしていますが、そのことは病院の質の低下をもたらし、都民の命や健康を危険にさらす政策です。

そして今回のコロナの対応でも多くの感染者を受け入れている、都立病院や公社病院がないと十分な対応ができないわけです。この間の報道では、コロナ感染症患者を受け入れている病院が赤字を出していると言われています。受け入れていない病院でも、外来等の一般患者が減少して経営が厳しくなっているようですが、受け入れた病院ほど赤字になるということです。公的な病院をしっかり確立しておく必要があります。

都民の命や健康を守る体制づくりは急務

感染症というのはコロナに関しても第2波、第3波が予測されていますし、これから10年おきに同じような問題が起こらないとも限りません。そのためにしっかり準備をし、本当に必要なところに税金をつぎ込んで、都民の命や健康を守る体制をつくるべきだと思います。医療体制の充実、これを考えると都立・公社病院の独立行政法人化は直ちに中止すべきです。中止するだけでなくむしろ充実を図るべきです。

多くの都民の方が仕事や住まいを失ったり、あるいは営業ができなくなったりして、生活や命の危険にさらされているのが現状です。今回の都知事選は都民一人ひとりの生存権がかかった選挙ではないか。そのためにも、まず健康や命を守る医療体制を充実させることが、国はもちろん地方自治体である東京都の重要な使命の一つだと思っています。

私に直接電話かけてこられたある看護師さんから、自宅に帰ると家族に感染する危険性があるので、病院の近くのホテルに泊まり込んで通勤しているが、それは全部、自腹だというお話を聞いてびっくりしました。

今回のコロナ問題で、エッセンシャルワーカーという社会に不可欠な労働者、医療従事者とか、配達をする労働者とか、スーパーの店員さんとか、清掃労働者に、称賛とか感謝の声を届けようという運動が広がっていますが、感謝と称賛だけでなく、そういう医療従事者などが安心して働けるような財政的な支援をきっちりやること、そういうことに感謝の声をつなげていかなければとあらためて思いました。

〇大利:宇都宮さん、ありがとうございました。尾林先生、宇都宮さんのお話を伺って、どのような感想をお持ちになりましたか。

都立・公社病院は命のとりで

〇尾林:この20年間の都立病院の動きを年表にまとめてみました。

石原都知事は「何がぜいたくかといえば、まず福祉」と言って、ひたすら都立病院を減らす政策を進めてきました。大久保、多摩北部、荏原、豊島は直営から公社に移譲されました。地方独立行政法人として健康長寿医療センターというのができました。それから駒込、府中、松沢では医療以外を民間企業に任せて下請け、非正規に委ねていくというPFIを導入しました。清瀬、八王子、梅ヶ丘の小児病院も廃止しました。

このような都立病院減らし、保健所減らしの政策を今こそ転換するときです。コロナの感染拡大で、多くの人がそのことの必要性を感じるようになってきています。そのことを示すのが今度の都知事選だろうと思います。

〇藤田:コロナ感染の拡大が続く中、橋下元府知事はツイッターでこのようなことをつぶやいています。ご存じの方も多いと思いますが、内容は、自分が改革を断行したせいで有事の現場を疲弊させてしまっているところがあるという内容でした。しかし、橋下さんは同時に改革の方向性は間違ってなかったとも言っています。

私は、有事の際に疲弊するような病院が果たして公立病院と言えるのかと疑問に思います。公立病院というのは、時に効率とか利益、採算というのを後回しにしてでも人員とか労働条件に余裕を持たせて、むしろ有事にこそ備えるべきだと私は思います。今後もし都立病院が独法化された場合、本当に今回と同じようにコロナ対策の最前線に立ち続けることができるのか。今回のコロナ禍をきっかけに、本当に都立病院を独法化しても大丈夫なのかということを、いま一度、考えるべきだと思います。

〇大利:ありがとうございます。それでは宇都宮さんのメッセージの後半です。

 

〇宇都宮:小池都知事が誕生して1年目は、私は75点とかなり高点数をつけたのです。ところが今は50点以下で落第です。なぜ最初のころに評価をしたかというと、就任当時、仲間の皆さんと一緒に11項目の要望書を小池さんにお渡ししました。その一つが、築地の豊洲移転は中止してもらいたいという要望書です。翌日には築地の豊洲移転はいったん立ち止まって考えると言ったのです。その後、マスコミで土壌汚染対策の盛り土が全くなされていないとか、建物の地下に空間があって汚染水がたまっているということとか、地下水のモニタリングで土壌や地下水の環境基準を超える汚染が分かってきたということが報道されました。

それで移転を中止するのかと思ったのですが、2017年の都議選で、都民ファーストの代表として「豊洲は生かす、築地は守る」と言いました。築地の市場機能は残すというような曖昧な発言をして選挙戦で都民ファーストが大勝しました。あの発言で、築地で働いている仲卸さんとか労働者の皆さんは大変期待したと思うのですが、結果としては、豊洲移転を強行して、築地はもう何もない状態にしてしまいました。築地に戻って市場機能を復活させることができない状態になってしまいました。

最初言ったことと、今言っていることが全く真逆ですね。

あれだけ自民党と公明党が立てた候補者の向こうを張って、東京大改革をうたって情報公開なんかも徹底すると言いましたが、豊洲とかオリンピックも含めて、結局元のさやに戻って、自民党、公明党のやってきた知事と全く変わらなくなっています。多くの都民は期待を裏切られた、そういう気持ちを持っているのではないでしょうか。

医療従事者は都民や市民の命や健康を守るために最前線で働いていると思います。それにふさわしい待遇とか病院のあり方、それが今回、問われているのではないかと思います。都民、市民の命、健康を守る医療体制を確立するために一緒になって頑張っていけたらと思います。

〇大利:コロナに対して、その第一線で頑張ってきた都立・公社病院を独法化、地方独立行政法人化させるわけにはいかないと思います。い

都立・公社病院の地方独立行政化をストップさせ、都民のために都立病院をもっと充実させて、もともと都立病院でした公社病院を都立病院に戻したいということを訴えて、この番組を終わりたいと思います。きょうは皆さん、どうもありがとうございました。