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笹山弁護士の労働相談

その2

質問

「組合ニュースを見ました。

組合はどうして、お給料の問題だけじゃなく、原発や消費税問題なんかに取り組むのですか?」

line01

 

答え

それは、一見無関係に見えることですが、職場の労働条件と切り離せない問題だからです。

 労働組合が職場の労働条件の問題とは一見関係のない問題について取り組む時は、政治的な問題について「○○反対!」といったスローガンを掲げることが多いですね。今だったら、「消費税増税反対」「税と社会保障の一体改革反対」「国会議員の比例定数削減反対」「秘密保全法の制定反対」といったように。こんなことから、労働組合が、なんだか「抵抗勢力」に見えて、イメージ悪いなぁ、そう思えることもありますよね。

 でも、こうしたイメージの悪さは、「作られたイメージ」で、労働組合は、単に、働きやすい職場と、住みやすい社会をめざし、そうだったらいいなぁということで取り組まれていることで、ためにする反対だとか、意味のない「抵抗」だとか、そう考えるのは間違いだと思うのです。

 それはどういうことでしょう。

 みなさんは、海堂尊氏の小説、「ジェネラル・ルージュの凱旋」を読んだことがありますか。映画化もされたので、映画をご覧になった人もいるかもしれませんね。医療に経済効率を求めるのはおかしい、命に値段をつけることはできない。なのにそれを医療現場に持ち込むことによって起こる矛盾は何か、それを描き出した小説でした。その矛盾の一つに、ERの職員の過酷な長時間労働が描かれていました。

 みなさんが働いている病院では、人手が不足している場合が多いと思います。病院は、どうしてたくさんの人手を確保しないのでしょうか。また、みなさんの給与は、簡単にあがらないし、むしろ、労働時間を過密化する方向で話がされる。これはなぜでしょうか。

 医療には、診療報酬制度によって、そもそも医療機関があげることができる「利益」は定められています。どんなにすぐれた医療行為であっても、他の病院と比べて価値が異なるとして料金を高く取るということは出来ません。

 看護師の人手不足にしても、単純に、看護師自体の人数をもっと確保し、労働時間のサイクルに余裕をつくり、労働条件面でもっと優遇すれば、解消されるでしょう。それがなかなかできないのは、そうした状況を生み出せる、病院経営をバックアップする仕組みがないからです。

 このように医療をめぐる、法や国の制度の拘束が、病院経営に大きな影響を及ぼします。それが、現場に矛盾という形で生まれるのです。人手を生み出す仕組みがないから、看護現場で人手不足が生まれ、現場では長時間労働や短い周期での夜勤拘束などの矛盾が生まれるわけです。

 だとすると、単に病院を相手に交渉を重ねるだけでは、職場の改善がなされることにつながりません。国に対し、医療の仕組み自体を有利に変更してもらうよう要求する必要がある。

 このように、職場を働く者にとって快適になるよう改善していこうとすると、社会全体の制度上の問題にぶつかることはしばしばです。だから、労働組合は、職場の問題だけではなく、社会の問題についても取り上げ、その改善を求めて運動するのです。

 でも原発や、消費税は、医療の制度とは関係ないのでは?と思われるかもしれませんね。いえいえ、そんなことはありませんよ。東京電力は、原発停止による燃料費増加で電気料金の値上げをすると言っており、それは病院経営を直撃する事態です。消費税が上がると、低所得者は医療費の支払いを抑制するようになり、病院からすれば、治療を継続しなければならない患者が勝手に治療を断念するような事態が引き起こされるでしょう。このように社会の問題が、職場の問題と全く無関係だと言うことはあり得ません。社会の問題は、職場とつながっているのです。

 だから、労働組合が、社会全体の問題と自分たちの職場の問題をつなげてとらえて、双方に取り組むのです。これは、世界的に見ても同じです。最近では、スペインでの例が思い起こされます。労働組合が、「賃金を上げろ」などのプラカードを掲げながら、一方で、「イラクへの軍の派遣反対」のプラカードを掲げる大規模なデモンストレーションを行い、こうした国民の声に押されて、スペイン政府がイラク戦争でのスペイン軍撤収を決めたのです。

 労働組合の要求が「抵抗勢力」のように見えるのは、例えば、今の問題であれば、「消費税増税」「税と社会保障の一体改革」「国会議員の比例定数削減」「秘密保全法の制定」をしようとしている人たちがいて、それがいかにも社会の本流の動きであるかのように描かれているからです。ですが、これらの事柄について、みなさんイメージしてみてください。買い物するたびに消費税を15%支払う。子どもを保育園に入れることが保育園との個別契約になって、料金によって保育の内容が違う。国会議員が二つの大政党で占められ、国会では、自分たちの暮らしの実感からすると関係のない話ばかりがされている。多くの事柄が「秘密」とされ、うかつにそうしたことについて話をしたら警察に捕まえられる。

 みなさんは、こんな社会に住みたいですか?いやー、私はごめんですね。そんな社会なら海外に逃げますよ(笑)。こんなに市民に冷たい政治が行われている社会で、労働法が労働者に優しく作られるとは到底思えませんしね。

 だから、大切なことは、そのことがら一つ一つをよく知り、それについて議論し、意見を持つことです。そんなの嫌だと思ったら「反対!」と言えばよく、そりゃいいじゃんと思うなら、「賛成!」と言えば良いだけのこと。今の労働組合が多くの事柄について「反対」と言わざるを得ないのは、今の政治が、市民にとってありがたくないことをしようとしているだけのこと。そんなことは市民が望んだことではないので、それが本流だという形で語られるのは、ただの作られたイメージなんです。

 組合に結集されているみなさんには、ぜひ、いろいろな社会の問題について知り、議論し、自分たちの意見を持ち、それを職場の中、そして職場の外に発信してもらいたいと思います。

                          以 上

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