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笹山弁護士の労働相談

その7

質問

「休憩を取らずに時間内に終わらせた場合、休まなかった休憩時間を超過勤務申請できますか?」

line01

 

答え

答えるのが難しいご質問ですね。

超勤申請することはできます。

ただし、休憩時間の休憩取得について、使用者の明示の指示(休憩せよ)がない場合です。

 超勤申請できるか否かは、結局のところ、問題となっている時間を「労働時間」と把握することができるか否かにかかっています。

Q5でも述べましたが、「労働時間」とは、「雇い主が雇い主の必要に応じて、労働者に求める行動に労働者が従事しなければならなかった時間」を言います。

裁判例では、「労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」(三菱重工業事件、最高裁平成12年3月9日判決)、と定義されています。

 このように、問題なのは、実際に雇い主の指揮命令下に置かれていたかであって、形式の上で「所定労働時間」とされていたか「休憩時間」かとされていたかではありません。

 休憩時間と当初指定されていた時間においても、業務を完遂しようと思えば、休憩を取ることができずに、就労をし続けたということは当然あるでしょう。

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そうした時間は、休憩時間とされた時間に突入する以前に雇い主の指揮命令下に置かれていたのと同様に、雇い主の指揮命令下に置かれていたと考えられますから、「労働時間」と把握することができます。ですから、超勤申請することは可能です。

 ただし、使用者から、「あなたは今から休憩時間ですね。

休憩に入ってください。」と明示的に指示を受けた場合は、使用者の指揮命令下には入っていないことになります。その場合に労務を提供したなら、それはボランティアということになりますから、超勤申請をすることはできない、というわけです。

 どうしてこういう休憩時間を費やす就労になるのか。

病棟では使用者(超勤簿にある命令権者、つまり一人で幾つもの病棟を受け持っている担当課長)が、休憩時間に関して常に明示的な指示を出すことは不可能と聞いています。

その中で、昼の休憩時間前に担当患者さんの血糖測定を行わなければならないとき、その業務を担当課長が他のスタッフに代行するように指示することは不可能ということになるはずです。

そうだとすれば、あなたが「忙しい他のスタッフに血糖測定をお願いするのは申し訳ない」と「自主的」に休憩時間を取らなかったとしても、また「午後の仕事の流れを考えて」休憩時間を「自主的に」取らなかったとしても、それは患者さんのためにその時間(休憩時間)に労働に従事しなければならなかったのであり、患者さんのために行ったことは、「労働者が使用者の指揮命令下」におかれていたことに他ありません。

したがって、超過勤務申請する事は可能、というよりそうすべきです。

 しかし、ご質問を見て、むしろ深刻かなと思えたのは、休憩時間を削って業務をまわしている、という実態です。休憩時間がきちんととれないほど労働が過密。つまり、そういうことですよね。

 休憩時間とは、労働日において、使用者の求める労務提供から完全に開放される時間をいいます。休憩については、労基法は、1日の労働時間が6時間をこえる場合は45分以上、8時間をこえる場合は1時間以上の休憩時間を労働時間の途中に一斉にあたえること、そして、休憩時間は、労働者の自由に利用させるべきことを規定しています(労働基準法第34条)。

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ただし、労使協定によって、一斉休憩については例外を設けることができます。事業の性格上一斉休憩が不適当な場合に備えるためです(病院の場合は労働基準法第40条、別表1の13号の適用となります)。

 「労働時間の途中に」入れろと言っていることから明らかなように、労働が心身の動きを必然的に伴うので、労働者の疲労をもたらすこと、労働者が心身ともに健康で、長期間就労し続けられるために、労働者のリフレッシュの時間が必要であること、から設けられた規定です。

また、使用者にとっても、労働者の作業効率があがるので、そのほうが結局は利益になるのです。

 労働から完全に解放される時間帯である以上、仮に使用者の施設内にいるとしても、使用者にとやかく言われるべきではない。ということで休憩の過ごし方は自由。自由利用原則はそのような趣旨の規定です。

 このように、休憩時間とは、労使双方にとって、長期にわたって健全な就労関係を形成するために必要とされる時間です。

まして、みなさんのように他人の命と健康を預かっている職場で、休憩をとらないことが就労能力の低下につながり、それによって患者さんの命や健康に影響を与えるようなことが起こっては、元も子もありません。したがって、休憩時間をろくに取ることができずに働くということをせざるを得ない医療職場というのは、誰にとってもプラスなことはない、実にあぶないものであると思います。

 労働基準法という法律は、使用者に対して規制をする法律です。ですから、第一義的に、休憩時間をしっかり取るようにする責任は、使用者にあります。

 また、労働基準法は、刑罰法令でもあります。労働基準法第119条1号は第34条に違反して労働者に休憩をさせなかった使用者について、「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。

つまり、みなさんを休憩させない使用者(担当課長、課長、部長、そして院長)は、犯罪者なのです。

 私たち弁護士は、刑事事件で罪を犯したことについて争いのない「犯罪者」を裁判で弁護します。一般の方から、よく、「どうして、正義の味方であるはずの弁護士さんが、悪い人の味方をするのですか。」と質問されます。

私は、「悪い人の味方」をするのにはいくつか理由がありますが、その1つは、その「悪い人」が自分の現状、人生を見直し、どこに問題があるのかを考え、これから二度と「悪いこと」をしないようにするためにはどうしたらいいのかを考える、その手助けをするため、それが法の正義だからだ、と考えています。

 犯罪者が犯罪をおかすには必ず理由があります。周囲の社会環境が悪い場合もある。その人をそのように追い込んでいった原因もある。しかし、最後に犯罪を犯す決断を下すのはその人です。

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 私の担当事例でこんな事例がありました。その人は、覚せい剤を自分で注射、吸入して使用していたのでした。「なぜ、こんなことをしたの?」聞いてみると、その人は、仕事がきつくて、ノルマに追われて、不眠不休で働かざるを得なくて、そのために一度手を出してしまい、それから止められなくなった、と言っていました。

彼をそのように追い込んだのは会社なのかもしれません。彼の辛さを分かち合えなかった上司、同僚のせいかもしれません。

しかしだからといってそういう事態について家族や会社に打開を求めて協議するのではなく、依存性が高く、健康を害し、ひいては自らの精神状態と家族関係を破壊していく薬物に頼るという決断をし、実際に行動に及んだのはその人自身の責任です。

 なぜ、家族や会社に相談しなかったのか?これから同じように仕事で追いまくられたら、あなたはやはり薬物に手を出すのか?そういうことを本人に問いかける。気がついてあげられなかったという同僚を証人尋問で難詰する。

これからも支えたいという家族の言葉を証人尋問で紹介し、本人を励ます。刑事事件での私たち弁護士の仕事というのは、そんな仕事なのです。

 この事例を引き合いに出したのは、まず何よりも、労働基準法で刑罰化されている条項を守っていないのは、使用者側の大問題であり、かつ、そのことに無反省でいることは許されることではない、ということを言いたかったからです。

患者さんの命を守らなければいけない看護師を、休憩時間もきちんととれないような労働環境においてそれを放置し、勤務時間前から多くの看護師が「自主的」に勤務を開始せざるをえない労働環境を知りながらそれを放置することは労働基準法違反であるということをきちんと自覚してもらいたい。

その違反に対して「自主的に来てるんでしょ」などと言う使用者(担当課長など)がいるとすれば、それは、犯罪が問題になっているときに、犯した罪について、「いやあ、仕方ないんですよ。どうしようもないんですもん。

これからもやるかって?そりゃ、やるかもしれませんなぁ。」なんてことを平然と被告人が裁判所で言い放つのとおなじです。そんな被告人を裁判所が許すと思いますか?

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 いまひとつ、私が「同僚を難詰した」と紹介したように、休憩時間をろくにとれないとすれば、その従たる責任は、みなさんがた労働者、労働組合にもあることを言いたいからでもあります。

犯罪が発生するのは、その主たる責任が犯罪者本人にあるとしても、見過ごしていた同僚に責任が全くないかといえば、私はそうではないと考えます。同じ悲劇を繰り返さないためにも、同僚にも考え直してもらい今後のために善処して頂く必要があります。

 この意味で、皆さん方に、そしてとりわけ労働組合には、使用者がきちんと労基法を守るように、監督し、働きかけていく責任があります。休憩時間をきちんと取るためにはどうしたらいいのか。

超勤申請がしにくいから休憩に働いてしまうのなら、超勤申請をしやすくする職場作りをすればよい。超勤を減らしたい、でも休憩もさせなければいけない、そういうことならそれに見合う人手を確保すればよい。そうした観点で、そうした職場を目指すにはどうしたらいいのか。

仕事の効率を考え「自主的に」休憩時間を取らない、勤務時間前に業務を開始しなければいけないような過酷な勤務状況では、あなたから見てペースに合わない、例えば仕事量に合わない「ゆっくり働く」スタッフが悪いような気持ちになってしまうこともあるでしょう。

でも患者さんにもいろんな方がいらっしゃると思います。テキパキした看護師さんが合う患者さんもいれば、ゆっくりした看護師さんが合う患者さんもいるでしょう。

いろいろな看護師さんがいるから、いろいろな患者さんを看護していけるのではないでしょうか? 誰もが仕事の効率優先で働かなくてはいけない。確かに仕事の効率は大事かもしれません。

しかし皆が効率を追求したために、結果、例えば末期のがん患者さんが「大好きなお風呂にゆっくり入りたい」という希望を持っているのに対して、時間がなくて大変だか、効率優先で「ベッドで身体を拭きましょう」と言うのでしょうか。

きつい言い方ですが、皆さんのプロ意識がそのようなものであるのなら、私たち患者になる立場の者からすると、そのような病院に安心して身を委ねることができないと思います。

皆さんの仕事は命の尊厳を守る仕事です。ですからそれに相応しい労働条件を正々堂々と要求するべきです。休憩時間が取りにくいなど安全の観点からはもってのほかです。

さらに資格を守るためにもプロはただで働いてはいけないのです。そして、私たち一般市民は、プロの看護師さんに、患者の命と尊厳をしっかりと守ってくれる、そんな看護をしてもらいたいのです。

しかし、個人としてのあなたが、使用者(担当課長など)に「プロとして」直接意見を言うことは困難だと思います。だから労働組合があるのです。

積極的に組合を利用して、あなたのプロとしての専門性を活かして現在の職場を働く皆さんにとっても、そして何より私たち一般市民のためになるようにして行ってほしいと思います。

 休憩時間がきちんととれないほど労働が過密。それはとても辛いことだと思います。ぜひ労働組合をうまく活用して、使用者との関係できちんと協議して頂くようにして欲しいと考えます。

                          以 上

 

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