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笹山弁護士の労働相談

その21

質問

Q21 育児短時間を使って3歳の子を共働きで育てています。 先日看護部の管理職から、『もう職場に復帰して2年なんだから夜勤をやりなさい、次に育児短時間を取る人がいるから、夜勤ができないなら非常勤になるか退職しかない』と言われました。これってパワハラじゃないでしょうか?」

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答え

育児短時間制度に関わる問題です。

 結論から言えば、これはパワハラに該当するとともに、マタハラでもあるといえるでしょう。

 ご質問者の立場が、東京都の職員であるのか、公社固有職員であるのかによって適用法令が異なります。前者の場合「地方公務員の育児休業等に関する法律」、後者の場合育児介護休業法です。

 育児介護休業法上は、「3歳に満たない子を養育する従業員について、従業員が希望すれば利用できる、短時間勤務制度を設けなければならない。 短時間勤務制度は、就業規則に規定されるなど、制度化された状態になっていることが必要である。

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短時間勤務制度は、1日の労働時間を原則として6時間(5時間45分から6時間まで)とする措置を含むものとしなければならない。」というものです(同法第23条)。3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する場合については、その労働者に関して、育児休業制度又は勤務時間短縮等の措置に準じて、必要な措置を講ずる努力義務があるとされています(同法第24条)。

 これに対し、地方公務員の育児休業等に関する法律では、「職員が当該職員の小学校就学の始期に達するまでの子を養育するため、当該子がその始期に達するまで、常時勤務を要する職を占めたまま、いくつかある勤務の形態から選択し、希望する日及び時間帯に勤務することができ、短い勤務時間で勤務することができる制度を設けることが定められています(同法第10条)。

 したがって、法律上は、3歳の子を育てる労働者の場合、事業体の事業主が制度を設けていない限り、公務員ではない労働者は育児短時間勤務制度を活用できる立場にはないことになります。

 しかし保健医療公社の場合、地方公務員の育児休業等に関する法律第10条の制度を公社固有職員も活用できるようにしているということですね。

 さて、この育児短時間勤務を取得しているときに、「そろそろ夜勤をしなさい」「次に育児短時間を取る人がいるから夜勤ができないなら非常勤になるか退職するかしかない」と言われたということは法的にはどのように見ることになるでしょうか。

 育児休業や、育児短時間勤務の取得については、この取得をしたことを理由に、当該労働者が不利益に取り扱われてはいけない、という法の精神があります。

 せっかくの育児休業、育児短期間勤務も、それを活用したら不利益な結果になったというのでは、制度を活用する人がいなくなってしまい意味がなくなりますし、子育てと仕事を両立させていこうとして女性の社会参加を促そうとする世の中の流れにも反します。

 そこで、地方公務員の育児休業等に関する法律第16条は、「職員は、育児短時間勤務を理由として、不利益な取扱いを受けることはない。」と定めています。ここでいう「不利益な取扱い」とは、解雇や降格、賃下げなどを指します。

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 育児短時間勤務を取り続けて夜勤をしないのであれば退職である旨を通告され、解雇通告ともとれる発言、そうでなくとも退職強要を受けているので、不利益取り扱いを受けているとみることができます。

 これは、公社固有職員の場合であっても同じです。地方公務員の育児休業等に関する法律第16条に基づく制度を公社固有職員にも適用されるものとして制度設計している以上、この制度に基づく権利を保有することは、地方公務員であれ、公社固有職員であれ、同じだからです。

 こうした女性の妊娠・出産・育児と就労の両立を妨げる行為について、法が厳しい態度を取っているのは、この規定だけではありません。

 男女雇用均等法均等法9条3項は、妊娠や出産を理由に女性に不利益な扱いをすることを禁じています。育児介護休業法第10条は、育児休業の申出、取得等を理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。

 この点、2014年10月23日、最高裁は、広島市の病院で理学療法士として勤めていた女性が、第二子の妊娠をきっかけに、軽い業務への転換を希望、異動後に役職を解かれたことについて、女性の降格に男女雇用機会均等法9条3項の趣旨及び目的に反すると判断しました。

 厚生労働省ではこれを受け、2015年1月23日付で、新たに通達を出しました。

 まず、妊娠・出産などの事由を契機として不利益取り扱いが行われていれば、原則として出産などを契機に不利益取り扱いがなされたと判断するべきこととしました。

 次に、育児介護休業の申し出又は取得を契機として不利益取扱いが行われた場合は、原則として、育児介護休業の申し出又は取得をしたことを理由として不利益取り扱いが行われたと判断するべきこととしました。

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 以上に基づき、仮に当該労働者からの申し出がなくとも、この通達に反する事態を把握した場合は、積極的に是正指導をするように労働局に通達しました。

 このように、働く女性が妊娠・出産などをきっかけに精神的肉体的な嫌がらせを受けたり、解雇や雇い止め・退職強要や降格などの不利益をこうむるといったマタニティー・ハラスメントは、許されるものではないとするのが社会の趨勢です。事業主は、マタハラを起こさないような職場環境を整えることを求められていることになります。

 ですから、育児短時間勤務を取得する労働者が複数あらわれたなら、事業主は、その部署がそれでもまわっていくように別途人の手配をすべきことになるり、当の育児短期間勤務を取得している労働者にツケをまわそうとするのはとんでもないお門違いです。

 こうしてみると、ご相談者の受けた被害は、既に地方公務員の育児休業等に関する法律第16条や均等法9条3項に反している(少なくともその趣旨に抵触する)ものですから、パワハラであるか否かはどうでもよいことにはなる気がします。

 念のため、パワハラかという観点でも検討しておくと、職場のパワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」を言う、とされています(2012年1月の厚生労働省のワーキンググループの定義)。ご相談者が受けた被害がこの定義に該当することは明らかでしょう。したがって、パワハラにも該当するということはいえると思います。

 全体の感想として、ご質問者が受けた被害のような状況は、世の中の流れに完全に反したものに思われます。私は安倍政権が労働法制を劇的に改悪しようとしていることなど、現在の政府のしていることには批判的な視線を持つことが多いですが、その安倍政権でさえ、「女性の社会進出の促進」ということは大きく掲げている方針です。

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それでなくとも女性にとって働きにくい場面が多く、それを改善しようとしているときに、働きにくい状況におとしいれようとするのはいかがなものか、との感想を抱きました。

 都庁職病院支部は女性の組合員が多いと思います。ぜひ組合でこの問題について話し合い、東京都当局や保健医療公社とこの点の世の中の流れに沿う措置の実現に向けて話し合ってみてほしいと思います。

 また念のため申し添えておきますと、育児介護休業法は、育児休業や育児短時間を行うことは女性労働者の権利であると制度設計しておりません。

この制度は男性労働者も活用できます。また、近時渋谷区の条例で話題になっているように、同性婚カップルであっても子育てしているケースはあり、この場合の子育てに対しても適用できるものです。

 要するに、子育ては、カップルの共同作業。この共同作業をいかに社会が支援できるかという観点で法は設計されているといえます。

私たちの運動の中でも、この視点を忘れず、子育てを女性労働者にばかりしわ寄せしないような努力が必要です。

ご相談者は、ご夫婦で共働きとのこと、ぜひ、こうした共同作業、頑張ってほしいです。

                              以 上

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