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笹山弁護士の労働相談

その16

質問

「『残業代ゼロ』が検討されているとニュースで聞きました。公務員や看護師も対象になるのでしょうか?」

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答え

 

 タイムリーなご質問ですね。

 結論を言えば、対象になります。今、構想されている内容が法律になれば、みなさんの「残業代はゼロ」という世の中が将来実現することになるでしょう。

 なんでこんな話になっているのか?

 ことは、こんな話に起因します。それは、首相官邸で設けている会議体に、「産業競争力会議」という会議があります。まあ、安倍首相のブレーンたちが集まって政策を検討し提言する、諮問会議のようなものだと思えばよいです。この会議の中で、雇用問題の会合の責任者をしているのが、長谷川閑史・武田薬品工業社長。みなさんの業界に関係ある人ですね。この人が、2013年11月11日付で、この会議で、「世界でトップレベルの雇用環境・働き方を目指して」というペーパーを出しているのです。この中で、長谷川氏は大要、次のように述べています。

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 『高度成長期に「終身雇用・長期雇用」「年功的昇進・賃金体系」「企業内労働組合」を内容とする日本的雇用システムが完成したが、…長期雇用保障の維持は困難で、労働者は、多様で柔軟な働き方を求めている。雇用や賃金の改善は、働き方の雇用規制の強化ではなく、経済成長とその結果である雇用需要の拡大からしか生み出されない。成熟産業から成長産業へと新陳代謝を促し、円滑な人材流動化を図ることが重要である。流動性ある公正で質の高い労働市場の確保、多様で柔軟な働き方を実現することが必要である。世界でトップレベルの雇用環境・働き方とは、多様で柔軟な選択肢をもった雇用システムの構築が必要で、そのためには、T、構成で質の高い労働市場の確立および個人の主体的な能力開発の支援・強化、U、多様で柔軟な個人の働き方改革の実現、の2つの考え方で改革を進めるべきである。』

 要は、「多様で柔軟な選択肢をもった雇用システム」を作っていくために、働き方を見直そうじゃないか、という提案をしているのです。

 その具体論の一つとして出てきているのが、「労働時間改革」なのです。

 具体的に提起されているのは、「日本型新裁量労働制」の導入、と呼ばれるものです。

 これは、「上司の具体的な指揮命令なしに、労働者が自らの判断で労働時間を決められる専門性の高い自己管理型職種で、例えば年収1000万円以上の高所得専門職について、年間一定日数の強制休暇の取得を義務づけた上で、時間外などの割増賃金制度を適用除外とする。」、という制度です。

 要するに、一定の条件を満たす労働者には、労働時間と賃金の関係を切り離し、いくら働いても賃金は一定額に抑えられる、という制度を提起しているのです。

 日本が世界でのグローバル競争に勝ち抜くためには必要だと彼らは言うのです。そして、企業が反映すれば、その利益から労働者への還元がなされるから労働者にとっても利益だ、と彼らは言うのです。

 しかし、皆さんご存知の通り、これはウソです。

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 東京都は、巨大な税収を持っていますが、それは皆さんの労働条件に還元されていますか?巨大開発にお金は使っても、都庁の職員の超過勤務手当は実態通りに全額支払われることはありませんよね。お金があっても、労働者に還元するなんてことは、労働組合が頑張らなければ実現しないことなのです。

 また、そうした還元がなされる前に、長時間労働で心身が壊れる人が必ず出てきてしまいます。私の依頼者のコンビニ「SHOP99」の店長は、最低でも月間250時間以上の労働に従事しました。それでも彼の年収は300万円。そして彼はうつ病になって社会復帰にまる6年の月日を必要としました。こんなことをしなければ、日本の企業は生き残れないというのなら、それは経営者が自らの無能を自白しているだけですよね。

 しかし、危険は切迫しています。

 こうした制度については、すでに厚生労働省の労働政策審議会で議論が開始されています。厚生労働省では、今年つまり2014年の9月頃には、方向性を取りまとめたいとしています。もしその通りに進めば、早ければ今年の秋の臨時国会、遅くとも来年2015年の通常国会には、この法案が形をつくって国会に提出されるのです。

 年収1000万円以上で裁量性の強い労働者という限定だから自分には関係ないとお考えになってはいけませんよ。

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 こうしたことはいつでも「小さく産んで大きく育てる」のです。1985年に13種類の高度な専門職だけに活用されるというたてまえで始まった労働者派遣法は、1999年には原則すべての職業で活用できることになり、現在、期間制限そのものを撤廃してしまおうという未曽有の改悪案が国会に提出されています。もともと「残業代ゼロ」法案を法律にすることは、2006年の第一次安倍政権が考えて挫折した経験を持つ法案です。安倍政権の悲願と言ってよい。この2006年の時、残業代ゼロの対象とされた労働者は、年収400万円以上の労働者でした。これが彼らの本音なのです。

 「残業代ゼロ」法案が実を結ぶ場合は、労働基準法の労働時間法制部分の改正という形をとって提出されるでしょう。労働基準法の労働時間法制部分は、地方公務員法によって排斥されず、地方公務員にも適用されています。だから、都庁職病院支部の組合員の皆様すべてに、適用される法律です。

 ということで、これは法律が、とんでもない悪法に変えさせられようという話です。皆様、積極的に、とんでもない改悪はゴメンだ!変えるなら労働者にもっと優しい(例えば36協定に上限時間制限を設けるなど)改正にしろ!の声をあげていただきたいところです。

 ところでこの「残業代ゼロ」法案への策動は、この法案だけの話になっていないことに注意が必要です。これは、実は、労働法全体を規制緩和していこうという巨大な動きの一環ですので、そのことも知っていただきたいと思います。

 労働法の規制改革として、安倍政権側が計画している内容としては、次のメニューがあります。

@解雇の金銭解決制度。
A国家戦略特別区域法による解雇手続きの制度化。
B研究開発力強化法の改正に引き続く、「高度な専門的知識等を有している者で、比較的高収入を得ている者など」の無期転換請求権の例外化。
Cジョブ型(限定)正社員制度の導入。
D労働者派遣法改正による労働者派遣の期間制限の撤廃。

 これらは、いずれも労働者の権利を切り縮める内容です。

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 解雇をよりしやすくし(@AC)、有期契約の労働者が無期契約に転換して「非正規の正規化」を実現する制度に例外の風穴を大きくし(B)、労働者派遣を固定化してより非正規を非正規のままに据え置こうとする(D)というもので、労働者にとって権利の実現・拡大といえるものはひとつもありません。

 こうしてみると、現在安倍政権が構想している労働法の規制改革は、労働者の権利を小さくして、雇用を奪ったりただ働きを拡大したりしても企業が文句も言われず自由自在に行動できる社会を目指しているということがいえます。「残業代ゼロ」法案の策動も、こうした動きと軌を一にするものなのです。

 都庁職病院支部のみなさんの中には、労働契約法の話であるBなどは、直接関係ない方もいらっしゃいます。しかし、これらは全部つながっている話。自らの問題として、「残業代ゼロ」法案に限らず、どんな内容なのかよく知ってもらい、そのうえで、どんな行動をするのか考えてもらいたいです。

                                以 上

   

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